東京・原宿。
若者の街として知られるこの場所から、ほんの数分歩くだけで景色が一変します。
ざわめきが、ふっと遠のく。
足元の音が、アスファルトから砂利に変わる。
巨大な鳥居をくぐった瞬間、深い森の空気に包まれる。
「ここ、本当に東京?」
初めて訪れた人のほとんどが、同じことをつぶやきます。
明治神宮。
初詣だけで約300万人が訪れる、日本有数の神社です。
けれど、こう感じている方も多いのではないでしょうか。
- 「歴史が新しいから、伊勢神宮や出雲大社とは違うのでは?」
- 「明治天皇を祀っているって、どういう意味があるの?」
- 「あの森はどうしてあんなに深いの?」
- 「参拝のやり方や順路、おすすめの時期も知っておきたい」
この記事では、元神職としての視点から、明治神宮の本当の魅力を一つも漏らさずにお伝えします。
物語と歴史、参拝順路、アクセス、御朱印やお守り、おすすめの時期、周辺スポットまで。
読み終わるころには、きっとこう思っていただけるはずです。
「ああ、明治神宮はただの観光地じゃなかったんだ」と。

第1部:物語と思想 ─ 明治神宮の本当の魅力
明治神宮とは?──近代日本の心が形になった場所
明治神宮は、東京都渋谷区にある神社です。
ご祭神は、明治天皇と昭憲皇太后(しょうけんこうたいごう)。
創建は1920年(大正9年)。
歴史としてはまだ100年ほどしか経っていません。
伊勢神宮の2000年、出雲大社の悠久の歴史と比べると、たしかに新しい神社です。
けれど私は、神職として奉職していた頃から、こう感じていました。
👉 明治神宮の本当の魅力は、「新しさ」の中にこそある、と。
明治という時代。
それは、日本が大きく変わった激動の時代でした。
江戸から明治へ。
着物から洋服へ。
刀から鉄道へ。
価値観も、暮らしも、すべてが一変した時代です。
その中心にいたのが、明治天皇でした。
明治天皇が崩御されたとき、国民の中に自然と湧き上がった気持ちがありました。
「あの方を、未来にお祀りしたい」
明治神宮は、政府が一方的に建てたものではありません。
全国から集まった人々の願いが、一つの森を生んだのです。
なぜ明治神宮は「森」なのか?──100年計画で生まれた人工の杜

明治神宮を語るうえで、絶対に外せないのが「森」の存在です。
面積は約70万平方メートル。
東京ドーム約15個分。
驚くべきは、この森が人工林だということ。
しかも、ただの人工林ではありません。
「150年後、自然のままの森になるように」
そんな壮大な計画のもと、当時の林学者・本多静六博士らが設計した森なのです。
全国、そして海外から献木された約10万本・365種の樹木。
それを、計算し尽くした配置で植えていく。
「孫の代に、本物の鎮守の森を残す」
これが、明治神宮造営の根本にあった考えでした。
※「代々木」という地名の由来は、代々受け継がれてきた樅(もみ)の木があったことから来ているといわれています。
私が神職時代、先輩からこんな話を聞いたことがあります。
「祈りとは、自分が生きている間に成果を求めないことだ」と。
明治神宮の森は、まさにその思想そのものです。
植えた人たちは、完成した森を見ることができません。
100年、150年先の日本人のために、木を植えた。
これは、ある種の祈りそのものではないでしょうか。
木を植えるという行為は、未来を信じるという行為。
そう気づいたとき、私は明治神宮の見え方が一変しました。
明治天皇とはどんな方だったのか──「人」が神になるということ
ここで、多くの方が疑問に思うことがあります。
「人間が神様になるって、どういうこと?」
日本の神道では、自然や祖先、そして人物も神として祀ることがあります。
これは、過去記事「八百万の神とは?」でもお伝えしてきた考え方です。
すべてのものに神性が宿る。
その中には、立派に生きた人もまた含まれる。
明治天皇は、第122代の天皇として、激動の時代の舵取りを担われました。
ご即位の時、満14歳(数え16歳)。
そこから明治維新、文明開化、日清・日露戦争を経験され、近代日本の礎を築かれました。
驚くべきことに、明治天皇は生涯で約9万首もの和歌を詠まれた方でもあります。
私が特に好きな御製があります。
目に見えぬ 神の心にかよふこそ
人の心の まことなりけれ
― 明治天皇 御製
「目に見えない神の心と通い合うこと、それが人の心の真実である」
これは、神道の核心を、たった31文字で表した歌だと私は感じています。

明治神宮では、こうした明治天皇の御製や昭憲皇太后の御歌に出会える特別な仕掛けがあります。
それが、おみくじ「大御心(おおみごころ)」。
吉凶ではなく、「今の自分に必要な言葉」と出会うおみくじです。
詳しくは第2部「おすすめの授与品」でご紹介します。
昭憲皇太后もまた、教育や福祉、女性の地位向上に尽力された方です。
日本赤十字社の活動を支え、「昭憲皇太后基金」は今もなお世界の災害救護に使われています。
お二人を祀るということ。
それは、「お二人のように、誠実に時代と向き合いたい」という願いの表れでもあります。
神社は、願いを叶える場所ではありません。
心を整える場所です。
明治神宮に祀られているのは、神話の神ではなく「人」。
だからこそ、私たちは自分の人生と重ねやすいのかもしれません。
酒樽とワイン樽──「和魂洋才」が見える参道

南参道を歩いていくと、ある不思議な光景に出会います。
右手・菰樽(こもだる)
全国から奉納された日本酒の樽。
日本の伝統を象徴。
左手・ワイン樽
フランス・ブルゴーニュ地方から奉納。
明治天皇が好まれた西洋文化の象徴。
この光景こそ、私が明治神宮を最も象徴する景色だと考えているものです。
明治天皇は、伝統的な日本文化を大切にされながら、西洋文化も積極的に取り入れた方でした。
肉食を解禁し、洋服を採用し、ワインも好まれたといいます。
「和魂洋才」──日本の心を保ちながら、世界に学ぶ。
この姿勢が、参道の樽たちにそのまま表れているのです。
👉 明治神宮は、日本と世界をつなぐ祈りの場所でもある。
ぜひ、立ち止まって両側の樽を眺めてみてください。
清正井(きよまさのいど)──「パワースポット」と呼ばれる前から

明治神宮御苑の奥にある、清正井。
加藤清正が掘ったと伝えられる、こんこんと湧き続ける井戸です。
ある時期から「パワースポット」として大きく取り上げられ、行列ができるようになりました。
正直に言えば、神職時代の私は、この「パワースポット」という言葉に少し違和感を持っていました。
水が湧くということ。
それは、何百年も前から日本人にとって、ごく自然に手を合わせる対象でした。
特別な力を求めにいくのではなく、自然のいとなみに頭を下げる。
それが日本人の感覚です。
清正井の前に立ったとき、「パワーをもらう」という気持ちより、
「ずっと湧き続けてくれてありがとう」という気持ちが先に来ると、
きっと景色が違って見えるはずです。
第2部:明治神宮 完全参拝ガイド
ここからは、初めて訪れる方でも迷わないように、実用的な情報をすべてまとめます。
▼ 基本情報
| 住所 | 東京都渋谷区代々木神園町1-1 |
|---|---|
| 電話 | 03-3379-5511 |
| 開閉門時間 | 日の出と日の入りに合わせて毎月変動 (例:6月 4:30〜19:00/12月 6:40〜16:00) |
| 本殿参拝 | 無料 |
| 明治神宮御苑 | 維持協力金 500円 |
| 明治神宮ミュージアム | 1,000円 |
| 所要時間 | 本殿のみ 約60〜90分/御苑含めて 約2〜3時間 |
※開閉門時間は月ごとに変わるため、訪問前に明治神宮公式サイトでご確認ください。
▼ 明治神宮への行き方(アクセス)
明治神宮には三つの参道があり、それぞれ最寄り駅が異なります。
| 参道 | 最寄り駅 | アクセス |
|---|---|---|
| 南参道(メイン) | JR原宿駅/東京メトロ明治神宮前駅 | 徒歩1分 |
| 北参道 | JR代々木駅/東京メトロ北参道駅 | 徒歩5分 |
| 西参道 | 小田急線 参宮橋駅 | 徒歩3分 |
初めての方には南参道がおすすめです。
初めての方には南参道がおすすめです。
最大の見どころである大鳥居と酒樽・ワイン樽を通れます。
▼ 自家用車の場合
南神門近くに駐車場があります(無料・約80台)。
ただし台数が限られているため、土日祝・初詣シーズンは公共交通機関が確実です。
▼ 参拝順路モデルコース
初めての方向け:90分コース
- JR原宿駅で下車
- 南参道 大鳥居をくぐる(一礼)
- 酒樽・ワイン樽を眺める
- 手水舎で身を清める
- 南神門をくぐり、本殿へ
- 本殿参拝(二礼二拍手一礼)
- 夫婦楠にご挨拶
- 授与所で御朱印・お守り・大御心を受ける
- 南参道を戻る
参拝の作法に不安がある方は、神社の正しい参拝方法もあわせてご覧ください。
【じっくり味わいたい方:半日コース】
上記に加えて、
- 明治神宮御苑(清正井・菖蒲田)を散策
- 宝物殿または明治神宮ミュージアムを見学
- フォレストテラス明治神宮でひと休み
▼ 見逃せない7つの見どころ

1. 大鳥居(第二鳥居)
高さ約12メートル、木造の明神鳥居としては日本最大級。
使われているのは、台湾・丹大山の樹齢約1500年の檜です。
これほどの巨木は、現代の日本では手に入りません。
2. 酒樽とワイン樽
南参道の名物。和と洋が並ぶ象徴的な光景。
3. 夫婦楠(めおとくす)
本殿の前にある二本の楠。しめ縄でつながれています。
4. 御本殿
戦災で焼失し、現在の社殿は1958年(昭和33年)に再建されたもの。
5. 明治神宮御苑
江戸時代は加藤家・井伊家の下屋敷だった庭園。
6月の花菖蒲(約150種・1500株)は圧巻です。
6. 宝物殿
明治天皇・昭憲皇太后ゆかりの品々を収蔵。
7. 明治神宮ミュージアム
建築家・隈研吾氏設計。2019年開館。御神宝などを展示。
▼ 夫婦楠(めおとくす)と「縁」の意味
本殿の前にある夫婦楠。
これは、明治天皇と昭憲皇太后のご夫婦仲の良さにちなんでいます。
縁結びのご利益で知られていますが、私は少し違う見方をしています。
「縁」とは、恋愛だけのものではありません。
家族、友人、仕事、そして自分自身との関係。
すべては「縁」でつながっています。
夫婦楠の前に立つと、私はいつもこう考えます。
「今、自分の隣にあるご縁を、大切にできているだろうか」と。
出雲大社の記事でもお伝えしましたが、ご縁とは「結ぶもの」であると同時に、「気づくもの」でもあります。
急がず、立ち止まり、見上げる。
明治神宮では、その動作のひとつひとつが祈りに変わります。
▼ おすすめの授与品
御朱印
- 初穂料:500円
- 受付場所:神楽殿
- 受付時間:開門〜閉門
御朱印のいただき方に迷う方は、御朱印の意味ともらい方もご参考に。
おみくじ「大御心(おおみごころ)」
おみくじ「大御心(おおみごころ)」
明治神宮を訪れたなら、ぜひ受けていただきたいおみくじです。
- 大吉・凶などの吉凶判定はありません
- 明治天皇の御製、または昭憲皇太后の御歌一首と解説
- 厳選された30首から、一首が手元に届きます
私はこの大御心を、おみくじというより、自分への手紙のように感じています。
引いたあとは、結ばずに持ち帰り、迷ったときに読み返す。
そんな付き合い方が似合う、特別な一枚です。
おみくじとの向き合い方については、おみくじは結ぶ?持ち帰る?もぜひ。
明治神宮を訪れたなら、ぜひ受けていただきたいのが、おみくじ「大御心」です。
第1部でも少し触れましたが、これは普通のおみくじとはまったく違います。
- 大吉・中吉・凶などの吉凶判定はありません
- 書かれているのは、明治天皇の御製、または昭憲皇太后の御歌一首
- そこに、わかりやすい解説が添えられています
明治天皇の御製は約9万首、昭憲皇太后の御歌は約3万首。
その膨大な歌の中から選び抜かれた30首が、大御心として収められています。
開運木鈴「こだま」
明治神宮の森の間伐材から作られた木の鈴。
森の音と再生のシンボル。私が最もおすすめする授与品のひとつです。
福守(ふくまもり)
明治神宮を代表するお守り。菊の御紋入り。
除災招福守(じょさいしょうふくまもり)【正月〜立春の期間限定】
除災招福守(じょさいしょうふくまもり)【期間限定】
旧南参道鳥居の古材(台湾檜)から謹製された、大変貴重なお守り。
- 毎年、数量限定で奉製
- 正月期間〜立春(2月3日前後)まで
- なくなり次第終了
かつて参拝者を迎え続けた鳥居の木が、長い役目を終えたあとに、お守りとして新しい姿に生まれ変わる。
何ひとつ無駄にせず、形を変えて未来へつないでいく。
森を植えた人たちの心と、まっすぐ重なるお守りです。
👉 もしこの時期に参拝される方は、ぜひ授与所で確認してみてください。
その他
学業守、勝守、健康守、夫婦守、縁結びの鈴守など、種類も豊富です。
お守りの扱い方については、神社のお守りの正しい扱い方もあわせてどうぞ。
▼ いつ参拝するのがよいか
季節別おすすめ
| 時期 | 見どころ |
|---|---|
| 1月 | 初詣(約300万人)/除災招福守の授与 |
| 4月 | 春の大祭・新緑 |
| 6月 | 御苑の花菖蒲が見頃 |
| 7月 | 七夕祈願祭 |
| 11月 | 例祭・紅葉 |
| 12月末 | 大祓・除夜祭 |
時間帯別おすすめ
- 早朝(開門〜8時):もっとも空いている。森の空気が一番澄む
- 午前中:人出が少なく、写真も撮りやすい
- 夕方(閉門1時間前):夕陽が森を照らし、幻想的
私の一番のおすすめは、平日の早朝です。
砂利を踏む自分の足音だけが聞こえる、特別な時間に出会えます。
▼ 明治神宮周辺の楽しみ方
参拝後の楽しみも、明治神宮の魅力の一部です。
代々木公園(徒歩すぐ)
明治神宮と隣接。芝生でひと休み。
原宿・表参道(徒歩5〜15分)
カフェ、ショッピング、若者文化の中心。
参拝後のティータイムにぴったり。
フォレストテラス明治神宮(神宮内)
南参道沿いのカフェ・レストラン。
参拝の余韻のまま、森を眺めながら食事できます。
北参道方面
落ち着いたカフェが多く、北参道から出ると静かな散歩が楽しめます。
第3部:明治神宮で感じてほしいこと──私の体験から
最後に、私自身の話を少しさせてください。
神職を辞め、動画編集者として歩み始めたばかりの頃。
私は迷いの中にいました。
「この道で本当によかったのか」
「50代から始めて、間に合うのか」
そんな問いを抱えたまま、明治神宮を訪れました。
参道を歩きながら、私はふと、足元の砂利を見つめました。
一粒一粒は小さく、目立たない。
けれど、何百万人もの参拝者の足を支え続けている。
そのとき、こう思ったのです。
「目立たなくてもいい。一歩ずつ、続けていけばいい」と。
神社は、答えをくれる場所ではありません。
けれど、自分の中にすでにある答えに、気づかせてくれる場所です。
明治神宮の森は、私にとってそういう場所でした。
50代で安定した仕事を辞める決断ができた理由にも書きましたが、人生の分岐点で背中を押してくれたのは、誰かの言葉ではなく、ひとりで歩いた森の時間でした。
まとめ──100年前の祈りが、今も生きている
明治神宮は、新しい神社です。
けれど、その新しさの中に、日本人が大切にしてきた古い感覚が息づいています。
明治神宮に息づく、日本人の心
- 未来の世代のために木を植える
- 立派に生きた人を敬う
- 自然と共に心を整える
- 日本の心を保ちながら、世界に学ぶ
これらはすべて、近代以前から続く日本人の感覚です。
明治という激動の時代を経ても、その心は失われませんでした。
むしろ、激動の時代だったからこそ、人々はより強く「祈り」を求めたのかもしれません。
👉 明治神宮を訪れることは、日本人としての自分のルーツに触れること。
そう私は感じています。
行ってみませんか、明治神宮へ
もし今、あなたが少し疲れているなら。
何かに迷っているなら。
ぜひ、明治神宮の鳥居をくぐってみてください。
スマホをポケットにしまい、ゆっくり歩く。
それだけで、何かが変わるはずです。
100年前、誰かがあなたのために木を植えてくれた。
その事実に触れるだけで、人はまた前を向けるものです。
次回の神社巡りシリーズでは、別の神社の魅力もお届けします。
ぜひ、あなたの心の旅にお付き合いください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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