「鹿島立ち(かしまだち)」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。
旅立ちのことを、古い日本ではこう呼びました。
新たな門出。
未知の世界への一歩。
人生の節目の旅。
その語源こそが、今日お話しする鹿島神宮です。
茨城県の有名な神社。
武道家が訪れる聖地。
東国三社のひとつ。
そんなイメージをお持ちかもしれません。
けれど、鹿島神宮にお祀りされているのは、ただ「強さ」を象徴する神様ではありません。
「揺らがぬ覚悟を示す神」
私はそう感じています。
ご祭神は、武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)。
国譲り神話で、出雲の地に降り立ち、大国主命と向き合った神様です。
稲佐の浜の波の上に剣を逆さに突き立て、その切先にあぐらをかいて座ったと伝えられる、あの場面の主役です。
「武」というと、私たちはつい”戦い”や”勝負”を思い浮かべます。
でも、神道における「武」は少し違います。
乱れたものを正す力。揺らぎのなさで示す力。
そんな意味が込められています。
この記事では、元神職としての視点から、鹿島神宮の歴史と物語、参拝の作法、見どころ、授与品、アクセスまで――。
「この記事を読めば、もう他のサイトを見なくていい」と思っていただける完全ガイドをお届けします。
そして最後に、私自身が鹿島神宮で感じた「ある気づき」も書き添えました。
人生のどこかで迷っている方に、何かひとつでも届けば嬉しいです。

第1部:鹿島神宮の物語と思想
鹿島神宮とは──東国最古、「神宮」と呼ばれた三社のひとつ
鹿島神宮は、茨城県鹿嶋市にある神社です。
創建は、初代・神武天皇の御代(紀元前660年頃)と伝えられています。
日本書紀や常陸国風土記にも記される、東国でもっとも古い神社のひとつです。
「神宮」という社号を持つ神社は、現代では数多くありますが、平安時代に編まれた延喜式神名帳(927年)で「神宮」と記されたのは、わずか三社だけでした。
延喜式神名帳(927年)で「神宮」と記された三社
- 神宮(=伊勢神宮)
- 鹿島神宮
- 香取神宮
👉 伊勢神宮について詳しくは、【完全解説】伊勢神宮とは何か?なぜ日本人にとって特別なのか もあわせてご覧ください。
伊勢神宮が「日本人の祈りの中心」だとすれば、鹿島神宮は「東国の守り」として、長い時代を支えてきた神社です。
ご祭神・武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)とは
ご祭神は、武甕槌大神。
火の神カグツチが、伊邪那岐命によって斬られたとき、その剣から流れた血から生まれた神様です。
誕生からして「断ち切る力」を宿した神様といえます。
そして、もっとも有名な物語が「国譲り神話」。
天照大御神の命を受け、葦原中国(地上)を治めていた大国主命のもとへ降り立ちました。
このとき、武甕槌大神は出雲の稲佐の浜に降り立ち、波の上に十掬剣(とつかのつるぎ)を逆さまに突き立て、その切先にあぐらをかいて座ったと伝えられています。
物理を超えた、神話ならではの所作。
それは威圧ではなく、「揺らがぬ覚悟」を可視化した姿でした。
力で押さえ込むのではなく、ぶれない軸で示す。
👉 国譲り神話の詳細は、国譲り神話とは?経津主神・建御雷神・大国主命──”譲る”という選択に込められた日本人の心 で詳しく書いています。
なぜ「東国の守り」とされたのか

ヤマト政権が東国を治めていた古代、関東以北は「未知の地」でした。
そのため、東を守る要として、鹿島神宮と香取神宮が置かれたといわれています。
平安時代の朝廷からも厚く敬われ、武家の時代になると、源頼朝、徳川家康をはじめ、多くの武将がここを心の拠り所としました。
特に印象深いのが、剣豪・塚原卜伝(つかはらぼくでん)の存在です。
戦国時代に「剣聖」と呼ばれた塚原卜伝は、鹿島神宮の神官の家に生まれ、この社で剣の道を究めました。
彼が編み出した「鹿島新当流」は、後の日本剣術の源流のひとつとされています。
卜伝は晩年、こう語ったと伝えられます。
「剣は、人を斬るためではなく、己を律するためにある」と。
これこそが、鹿島神宮の「武」の本質です。
現代でも、剣道・柔道・武道家の方が必勝祈願に訪れる神社として知られていますが、その根底にあるのは「勝つこと」ではなく、「自分を整えること」なのです。
鹿島神宮が「決断の神社」と呼ばれる理由
私が鹿島神宮を表現するなら、こう言いたいのです。
「決断したい人のための神社」
タケミカヅチは、ただ強い神様ではありません。
正しく見極め、自分の中心に立ち戻らせてくれる神様です。
人生には、何度か「決めなければならない瞬間」が訪れます。
仕事を変えるか。
関係を続けるか終わらせるか。
今までを手放すか。
私自身、50代で神職を辞め、動画編集者として生き直すと決めたとき、何度も鹿島神宮を訪れました。
そこには「答えをくれる神様」ではなく、「迷っている自分を、まっすぐに見つめさせてくれる空気」がありました。
神社とは、願いを叶える場所ではなく、心を整える場所。
鹿島神宮は、その中でも特に「自分の軸を取り戻す場所」だと感じています。
第2部:鹿島神宮 完全参拝ガイド
基本情報
| 名称 | 鹿島神宮(かしまじんぐう) |
|---|---|
| 住所 | 茨城県鹿嶋市宮中2306-1 |
| 電話 | 0299-82-1209 |
| 開門時間 | 24時間参拝可能(境内は終日開放) |
| 授与所・御朱印 | 8:30〜16:30 |
| 宝物館 | 9:00〜16:00(休館日あり) |
| 拝観料 | 境内無料/宝物館 大人300円・小中学生150円 |
| 御祈祷 | 8:30〜16:00受付/初穂料 5,000円〜 |
| 所要時間 | 参拝のみ約60分/じっくり巡る場合 約2〜3時間 |
アクセス
| 手段 | ルート | 所要時間 |
|---|---|---|
| 電車 | JR鹿島線「鹿島神宮駅」下車、徒歩約10分 | 東京駅から約2時間〜 |
| 高速バス | 東京駅 → 「かしま号」→ 「鹿島神宮」バス停下車すぐ | 約2時間 |
| 車 | 東関東自動車道「潮来IC」から約15分 | 都心から約1.5時間 |
👉 実は高速バスが最速ルートです。
電車だと乗り換えが多く、バスのほうが早くて楽。これは現地の方もおすすめする裏ルートです。
駅を出ると、ゆるやかな坂道。
10分ほど歩くと、視界が開け、朱の大鳥居が現れます。
このアプローチも、鹿島神宮ならではの趣があります。
車の場合
- 東関東自動車道「潮来IC(いたこIC)」から約15分
- 駐車場:第1〜第3駐車場あり(合計約300台)
- 料金:1日 300円〜500円程度
👉 大祭や正月三が日は駐車場が混雑します。早朝の参拝がおすすめです。
参拝順路モデルコース
【初心者向け】60分コース
- 大鳥居
- 楼門(重要文化財)
- 拝殿・本殿(重要文化財)
- 鹿園
- 奥参道
- 奥宮
【じっくり向け】2〜3時間コース
上記に加えて:
- 要石(かなめいし)
- 御手洗池
- 宝物館
- 境内・参道の茶店で休憩
- 東国三社めぐり
東国三社めぐりや御船祭の参拝には宿泊が便利です
鹿嶋市内のホテル・潮来や水戸のお宿は、当日でも空きが見つかることがあります。
ゆったり朝の参拝を楽しみたい方は、前泊がおすすめです。
見逃せない見どころ7選
① 楼門(重要文化財)

日本三大楼門のひとつに数えられる、堂々たる門。
水戸藩初代藩主・徳川頼房が奉納したものです。
朱塗りの色合いと圧倒的な存在感は、訪れた瞬間に背筋が伸びます。
② 本殿・拝殿(重要文化財)

二代将軍・徳川秀忠が元和5年(1619年)に奉納。
通常は南向きの社殿が多い中、鹿島神宮の本殿は北向き。
これは「東国の外側(蝦夷)を守る」ためと伝えられています。
③ 奥宮

徳川家康が関ヶ原の戦勝御礼として慶長10年(1605年)に奉納した社殿。
武甕槌大神の荒御魂が祀られています。
ここの空気は、本殿とはまた違う”凛”とした緊張感があります。
👉 荒御魂・和御魂については、荒御魂と和御魂とは?一霊四魂から読み解く伊勢神宮の教えと人間の成長 で詳しく解説しています。
④ 要石

地中深くに埋まる神秘の石。
地中で暴れる大鯰の頭を抑えていると伝えられます。
水戸光圀(黄門様)が掘らせたものの、七日七晩掘っても底が見えなかったという逸話も残っています。
⑤ 御手洗池

一日40万リットルが湧き出る霊泉。
昔の参拝者は、まずこの池で禊をしてから本殿へ向かったと伝えられます。
水底まで透き通って見える美しさは、写真でも伝わりきりません。
👉 ここは特におすすめ。湧き水の音を聞いているだけで、心がふっとほどけていきます。
⑥ 鹿園

奈良の春日大社の鹿は、もともと鹿島神宮の神鹿が移されたものといわれています。
タケミカヅチの神使は鹿。境内で実際に出会うことができます。
⑦ 奥参道の杉並木
樹齢数百年の杉が並ぶ参道。
朝の早い時間に歩くと、光が斜めに差し込み、まるで別世界です。
おすすめの授与品
御朱印(3種類)
- 本宮御朱印(初穂料 500円)
- 奥宮御朱印(初穂料 500円)
- 摂社・末社の御朱印(時期により)
授与所:本殿横/奥宮横
受付時間:8:30〜16:30
👉 御朱印のマナーは、御朱印の意味ともらい方|元神職が教える初心者マナー入門 をご覧ください。
お守り
- 要石守:迷いを断ち、軸を定めるお守り。鹿島神宮ならでは。
- 勝守(かちまもり):勝負事・受験・試合に。武道家から厚く敬われるお守り。
- 鹿の絵柄のお守り:神使である鹿をモチーフにした可愛らしいお守り。
ここでしか手に入らない特別な授与品
- 韴霊剣御守:宝物館に納められている国宝の剣をモチーフ。「迷いを断つ力」を象徴。
- 東国三社守:鹿島・香取・息栖の三社をめぐった人だけが完成させられる特別なお守り。
👉 東国三社守は、三社をめぐる人にとっては「巡拝の証」になります。
いつ参拝するのがよいか
季節別
| 季節 | 特徴 |
|---|---|
| 春(3〜4月) | 桜と新緑。御手洗池周辺が特に美しい |
| 夏(7〜8月) | 杉並木の木陰が涼しく、神事も多い |
| 秋(10〜11月) | 紅葉と澄んだ空気。一年で最も参拝に向く |
| 冬(12〜2月) | 人が少なく、凛とした空気で「武の神」を感じやすい |
時間帯別
- 早朝(6〜8時):もっともおすすめ。空気が澄み、人もまばら。
- 午前中(9〜11時):御朱印・授与品をいただくならこの時間。
- 夕方(15時以降):奥参道の光が美しい時間帯。
年間行事
- 1月1日 歳旦祭
- 3月9日 祭頭祭(さいとうさい):色鮮やかな衣装の囃人が街を練り歩く奇祭。
- 9月1日 例祭
- 12年に一度・午年の9月 御船祭(みふねさい)
⚠️ 2026年は「御船祭」の年です
実は、2026年はまさに12年に一度の御船祭が行われる年です。
朱塗りの大神輿が船に乗り、北浦の水面をゆっくりと進み、香取神宮の神様と海上で再会する――。
千年以上前から続く”神々の邂逅”が、今年再現されます。
これを目当てに参拝するだけでも、一生の思い出になる神事です。
周辺スポット
- 鹿島神宮 参道商店街:鹿島だんご、なまずの天ぷらなど名物多数。
- 境内・参道の茶店:御手洗池の湧き水で淹れたコーヒーが楽しめるお店もあります。
- 鹿島灘海浜公園:海と空が広がる、参拝後の散歩におすすめ。
鹿島神宮の参拝を終えたら──東国三社めぐりへ
鹿島神宮(茨城・東)、香取神宮(千葉・南)、息栖神社(茨城・西)――。
この三社を線で結ぶと、ほぼ直角二等辺三角形になることをご存知でしょうか。
古代の人々が意図して配置したともいわれる、不思議な聖地のトライアングルです。
車であれば、1日で三社すべてを巡ることが可能です。
東国三社守を完成させながら巡る旅は、人生の節目にぴったりの巡拝といえるでしょう。
知っておきたい豆知識
- 鹿島立ち:旅立ちのことを古くは「鹿島立ち」と呼びました。武甕槌大神が出雲へ旅立った故事から。新たな門出に参拝する人が多いのはこのためです。
- 大鯰と要石:地震を抑える要石は、香取神宮にもあります。鹿島が”頭”、香取が”尾”を抑えているという伝承。
- 奈良の鹿のルーツ:奈良・春日大社が創建されたとき、武甕槌大神が白い鹿に乗って鹿島から奈良へ向かったと伝えられます。だから春日の鹿は神聖視されるのです。
第3部:元神職としての体験と気づき
御手洗池の前で、ふと立ち止まった時間
私が鹿島神宮を訪れたのは、神職を辞めるかどうか、迷いの真っ只中にいた頃でした。
50代。
安定した職を捨てる。
未経験で動画編集の世界へ飛び込む。
何度も自問しました。
「本当にこれでいいのか」と。
水は迷わない。低いほうへ、ただ流れていく。
タケミカヅチの「断ち切る」という力は、剣を振るうことだけではない。
迷いを手放して、自分の中の水の流れに従うこと。
そう感じたとき、決断は驚くほどあっさりと、自分の中に降りてきました。
「決める」とは、何かを切り捨てることではない
私たちはつい、「決断」を”何かを切り捨てる痛み”だと考えがちです。
でも、本当の決断は違うのかもしれません。
もう答えは自分の中にあって、それを認めるだけ。
タケミカヅチが稲佐の浜で剣を逆さに立て、その切先に座って大国主と向き合ったあの場面も、もしかしたら「迫った」のではなく、「大国主自身の中にすでにあった答えを、ただ映し出していただけ」だったのかもしれません。
そう思うと、鹿島神宮は怖い神様の社ではなく、自分の本心と向き合わせてくれる場所として、また違った姿で見えてきます。
まとめ──鹿島神宮は「人生の節目」に訪れたい神社

鹿島神宮はこんな神社
- 東国最古の神宮
- 武の神タケミカヅチを祀る
- 国譲り神話の主役
- 「鹿島立ち」――旅立ち・決断・再出発の象徴
鹿島神宮は、
- 東国最古の神宮
- 武の神タケミカヅチを祀る
- 国譲り神話の主役
- 「鹿島立ち」――旅立ち・決断・再出発の象徴
そんな顔を持つ場所です。
けれど何より、私はこう伝えたいのです。
迷っているとき、決めたいとき、もう一度自分に戻りたいとき、訪れてほしい神社。
願いを叶えてもらう場所ではありません。
自分の中にすでにある答えに、気づかせてくれる場所です。
人生のどこかで、ふと立ち止まることがあったら。
東国の杉並木を歩き、御手洗池の水音を聞きに行ってみてください。
きっと、何かがゆっくりと動き始めます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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